航海日誌


by pacific_project
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下原資翠初個展記念インタビュー

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現代の生活に溶け込む書作品「ワテキスタイル」とは。

 書を和紙にではなく、テキスタイルに書いたらどうなる?
 そんな思い付きからはじまって、書は、ヨーロッパで古くからインテリアとして親しまれている「ファブリックパネル」の中に飛び込んだ。初の個展「ワテキスタイル」を白楽で開催中の書家・下原資翠と、その制作に携わった建築士・GLAMPOTに話を聞いた。(聞き手:太平洋プロジェクト編集部)



■書×テキスタイル。その動機
――普段はどんな書を書いていますか?

下原資翠(以下S) 古典書(楷書、行書、草書、隷書、近代詩、前衛etc)を書いています。

――それが今回、どうして布に書を書くことに? しかもパネルに?

S 書を自分のスタイルで表現したいとは、前々から考えていました。小さいころから書を習っていて、書は自分自身にとっては精神統一であり、同時にストレス解消でもあったりもするんです。けれど、あまり書に馴染みがない人も多いし、一般的には今の日本の生活様式とはマッチしていないな、という思いがありました。それで、日本の伝統ある書を、自分の感覚やスタイルで皆にとって近い存在にできたら、自分にも周りの人にも心地いいんじゃないか、と。
 だから今回意識したのは、今の人の生活の中に溶け込める書を作るということでした。

――GLAMPOTはなぜ資翠の書をパネルにしようと?

GLAMPOT(以下G) 普段は一級建築士で、おもに店舗内改装や住宅リフォーム、それと家具制作をやっています。数年前からファブリックパネルが気になっていて、フィンランドの布を買って自分でパネルを作ったら楽しくて。今も知り合いに頼まれて作ったりしています。
 資翠の作品を見たとき、書そのものというよりは筆のタッチが気になりました。日本の筆を使って、テキスタイルをデザインできたらおもしろいなあと思ったんです。

■少しずつ、「書」から自由になって
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――まずは「舞」「音」の作品から。企画をはじめて最初期に書いた作品だそうですね。このあたりは他の作品と比べて、「書」の体裁が強く残っていますか?

 ええ。この時はまだ、自分の意識が古典書から抜け出ていない状態でした。
 そうそう。作品を見せてもらったとき、これはいわゆる「書」の印象が強いなあと思いました。白と黒だけだったし。パネルにするには色を使ったり、ストーリーがあるほうが、表現が伝わりやすいんじゃないかってSに言ったんですよね。
 せっかくパネルにするのだから、紙でできないことをやったほうが面白いよねっていう話になって。これ以降は、私もそれを意識するようになりました。
 今、振り返ってみれば、特に「音」なんかは、パネルの見せ方としては不十分なところがあるかな、と思っています。パネルにした甲斐がないというか、書でいいじゃんっていう感じ。

――そうですか? これ、むしろパネルにしたことで、余白が生きてるような。横長で、水墨画の屏風のようだと感じました。音が響いている感じだ、っていう感想もありましたよ。

S そういうふうに言われるとうれしいですね。実は気に入っている作品でもあります。

――伝統的な書を長くやってきたわけですが、書を布に書くという行為に抵抗は?

 意識としては抵抗っていうのはあんまりなかったです。でも、書いてみたら……すごく大変だった!  書き慣れている紙と違って、思うように筆が全然動いてくれないんです。こういう線を書きたい、と思って書いてもダメで。紙に書く以上に計算ができなかったですね。それに、乾くとすごい薄くなってしまったり、墨の色も自由に出せなかったです。最初のうちは。

――普段、仕事でTシャツや衣服に画を描いているんですよね?

 ええ。でもそれは布用のインクを使って描いているので、墨で書くのとはまったく違いました。だから今回、相当布地を無駄にしていますよ(笑)。
 でもたくさん書いているうち、自分が教わってきた「書」での価値観とは違った、自分なりの完成形、というのが少しずつ見えてきました。

■「凛」をめぐって
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――2006年12月頃、展示の開催場所が白楽の「doudou cafe」に決まりました。

 私が住んでいる街の、よく行くカフェです。一人で行っても落ち着けて、いろんな人が集まってくるここの空気感が好きで、引っ越してきた頃から時々顔を出していました。
 あるときふと、自分の作品がここの空気の一部になっていったらいいなと思い立って、太平洋やGLAMPOTにお願いして来てもらって。

――確かに、サロンのような雰囲気があるところですよね。

 ええ、そうなんです。具体的に場所が決まったら、そこからは動きが早かった。このころ、創作モードがピークに達していて、書きまくっていました。

――このころ、「凛」という字を沢山書いています。

 「凛」は、前々から自分が大切にしているテーマのようなものなんです。自分が習ってきた書の心にも通じていて、また、なりたい自分像でもあります。古典書以外で初めて書いた字も「凛」ですね。
 ただ、実は「凛」はパネルにしにくい文字でした。自分は大きいパネルをつくりたい気持ちを持っていたので、資翠にお願いして、大きく力強く「凛」と書いてもらったんです。でも、それは結局パネルにはしませんでした。

――それはなぜ?

G まず、レイアウトの要素というのがあります。さっきも余白の話が出ましたが、大きい「凛」であっても、余白を広めにとることで、見える印象が全然違ってくるんです。折りこむための余白をとるようにとは事前に話し合っていたのですが、実際に作ってみたら、もっともっと余白があれば……ということになって。
 それともう一つ。当然ですが、文字には意味がありますよね。「凛」という字は、その意味が強くて完結していて、無駄がなかった。だからそれをパネルにするのが難しかったんです。
 今回作品として出している「凛」は、線がほそくてやわらかい感じになっていて、これまで私が書で書いてきた「凛」とはちょっと違っていると思います。パネルにすること、布に書くこと、今の生活に溶け込むことを全部考えて作ったら、そうなった。……でも、この「凛」については、別の機会でもう一度、納得できるまでやってみたいと思っています。
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■手ごたえを感じながら作品に打ち込んだ年末年始
――あそぶ、朝日、一週間、器について。このあたりの作品は「書」から随分と自由になったという印象を受けます。

 そうですね。パネルとして完成度の高いものを書く、というのが身体でわかってきて、自分で手ごたえを感じながら作っていました。年末年始にかけて書いたものですが、忘年会・新年会など、集まりの誘いを断って、ひたすら作品に打ち込んでいました。

――色が入っていますが、何を使って書いているんですか?

 顔彩といって、水墨画を書くときに使うものです。できるだけ書の要素を残してパネルにしたい気持ちがあったので、布用のインクではなく顔彩を使いました。墨も同じですが、乾くとやっぱり色が変わってしまうので、何度も書き直したりしています。

――このころGLAMPOTの事務所に集まって、パネル作りをしましたね。

 ワークショップみたいに、楽しんでもらいつつも手伝ってもらう、という感じで。久々に共同作業をしてみて、社会経験がある人はやっぱりいいなって改めて思った。というのは、普段若い人に仕事をお願いすることがあるんですが、こうしてほしいというのを伝えるのにすごい手間がかかるんですよ。非常に楽しかったです、文化祭の前日みたいで(笑)。

――今回制作にするにあたって、影響を受けたと感じる表現者は?

 影響かどうかはわかりませんが、オノ・ヨーコさんの作品や表現に対する姿勢が好きなんです。いろんなものをそぎ落として、ぎりぎりのところで表現している。書にもよく似たところがあるし、今回のパネルもそういう姿勢で作って出てきたものというのがあると思います。シンプルだけど受け手の心に響く、彼女の作品は一つの理想です。
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■自分のスタイルで、心をこめて作っていきたい
――全体の出来として、自分ではどう感じていますか?

 習ってきた「書」から初めて自由になって、古典書ではないかたちで表現する、その第一歩になったとは思っています。それと、自分が感じている時代の空気を取り入れながら作品を作ることができました。
 でも、自分が学んできたことを、最大限に表現するところまではいっていないと思います。自分のスタイルとして、まだ確立できていないので。

――それは次回の課題ということですね?

 はい。まだ布とパネルに十分に慣れたわけではないので、もっと研究を重ねて、いろいろ作っていきたいなあと思っています。それから、今回は技術的なところに意識をとられたという気もしているんです。次回はもっと心をこめることを意識していけたらいいですね。

――ありがとうございました。次回作を楽しみにしています!
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by pacific_project | 2007-02-18 00:29 | 日誌